登場人物
美咲(みさき)
女子大生。就活のエントリーシートの資格欄が真っ白なことに気づき、慌ててITパスポートの勉強を開始。ITは完全に素人。高校時代は可愛くて人気者だったので、ちょっとプライドが高い。素直じゃない。
拓也(たくや)
美咲の高校時代の同級生。東京大学工学部。子どもの頃からパソコンばかりいじってきた生粋のオタク。実は美咲のことが好きだが、10年近く言い出せていない。教えるのは得意だが、口が悪いのが玉に瑕。
今日の問題
今日の問題
商標法におけるサービスマークを説明したものはどれか。
- ア企業が、企業そのものを他社と区別するために表示する商標である。
- イ製造業者、販売業者が提供する商品を、他社の商品と区別するために表示する商標である。
- ウ大規模小売業者が開発したプライベートブランドの商品を、他社の商品と区別するために表示する商標である。
- エ輸送業者、金融業者などが提供する役務を、他社の役務と区別するために表示する商標である。
第1幕:スーツ、似合ってなくない
拓也
……美咲?
美咲
わっ、拓也!? なんでいるのよ
拓也
いや、こっちのセリフなんだけど。今日、学内で合同企業説明会やってるから、人多いなーとは思ってたけど……その格好、初めて見た
美咲
べ、別に。今日はそういう日だから着てきただけ。おかしい?
拓也
おかしくは、ない、けど……なんか、緊張する
美咲
は? なんであんたが緊張すんのよ
拓也
いや、なんでもない。……で、両手に何持ってるの、それ
美咲
あー……これ、全部ブースで配られたやつ。クリアファイルとかボールペンとか、ノートとか
拓也
すごい量だね。何社回ったの
美咲
8社くらい。もう足が棒。ちょっと休憩しようと思ってたところ
拓也
じゃあ、そこのベンチ座りなよ。……で、今日も1問、なんかあるんじゃないの
美咲
なんでわかるのよ
拓也
その顔してる。『わからないことがあるけど認めたくない』顔
美咲
……っ、うるさい。ほら、これ
美咲がスマホの画面を見せる。ベンチの隣、企業ブースの喧騒が少し遠くに聞こえる。
拓也
商標法……サービスマーク? おっ、今日は法律系か
美咲
うん。正直、あんまり得意な気がしないんだけど
第2幕:ロゴなんて、みんな同じでしょ説
拓也
で、どれだと思う?
美咲
これ、余裕だと思う。ア
拓也
お、理由は?
美咲
だって見なさいよ、これ全部
美咲が抱えているクリアファイルやパンフレットを何枚か広げてみせる。どれも角に大きく社名とロゴが入っている。
美咲
メーカーも、銀行も、人材紹介の会社も、みんな同じようにロゴがドーンって入ってるでしょ。ロゴが入ってるってことは、全部まとめて『商標』でいいじゃない。だから、企業を区別するための商標、でア
拓也
うーん、気持ちはわかるんだけど、それだと『サービスマーク』が何なのか、答えたことになってないんだよね
美咲
え、なんでよ。ロゴはロゴでしょ
拓也
そこ、実はけっこう深いひっかけなんだよ。……あ、そうだ。ちょっと聞きたいんだけど
美咲
なによ
拓也
今日回った8社、全部同じようにグッズくれた?
美咲
え? うーん……言われてみれば、くれなかったとこもあった、かも
拓也
いい着眼点。それ、今回のカギだから覚えといて
第3幕:配れるか、配れないか
拓也
まず答えから言うと、この問題の正解はエ
美咲
エ? 『輸送業者、金融業者などが提供する役務を、他社の役務と区別するために表示する商標』……役務ってなによ、また知らない単語
拓也
役務(えきむ)は、簡単に言うとサービスのこと。形のない、目に見えない仕事のことだよ。運送とか、銀行とか、保険とか、美容室とか
美咲
サービスのことをわざわざ役務って言うの、法律って回りくどいわね
拓也
ほんとそれ。……で、さっきの質問に戻るけど、今日回った8社、グッズくれた会社とくれなかった会社、どんな違いがあったか覚えてる?
美咲
えーと……メーカー系のブースは、なんかグッズいっぱいくれた。お菓子作ってる会社とか、文房具の会社とか。逆に、銀行とか保険会社とか人材紹介の会社は、パンフレットと名刺しかくれなかった、かも
拓也
そこ! まさにそこが今日のポイント
美咲
え、なんで
拓也
メーカー系の会社って、"商品"を作ってるでしょ。お菓子とか、文房具とか、手に取れるモノ。だからそのモノに直接ロゴを刷って、クリアファイルやボールペンとして配れる。あれは全部、商品につける商標なんだ
美咲
あ、たしかに。ボールペンにもロゴ入ってた
拓也
一方で、銀行とか保険会社とか運送会社は、売ってるものが"サービス"であって、手で持てるモノじゃないんだよ。お金を貸すとか、荷物を届けるとか、事故のときに保証するとか。形がないから、ボールペンに刷って持って帰ってもらう、ってことができない
美咲
……あ、だからパンフレットと名刺しかもらえなかったのね
拓也
そう。でも、形がないからってロゴがいらないわけじゃないでしょ。むしろ形がないからこそ、『これはうちの会社が提供してるサービスですよ』って示すマークが必要になる。それがパンフレットや看板、名刺、制服なんかにつく
美咲
それが……サービスマーク
拓也
そういうこと! 商標法では、商標って大きく2種類に分かれてるんだ
- 商品商標(普通のトレードマーク) → 手に取れる"モノ"につける
- 役務商標(サービスマーク) → 形のない"サービス"につける
拓也
エの選択肢、『輸送業者、金融業者などが提供する役務を、他社の役務と区別するために表示する商標』ってなってるでしょ。輸送業者も金融業者も、まさに商品じゃなくてサービスを売ってる会社。だからこれがサービスマークの正しい説明
美咲
……なるほど。じゃあさっきのアは何が違うのよ
拓也
アの『企業そのものを他社と区別する』っていうのは、商品でもサービスでもなく、会社という存在そのものを表すマークの話。試験用語ではないけど、いわゆる『ハウスマーク』って呼ばれ方をするやつに近い。サービスマークとは指してるものの軸がズレてるんだ
美咲
……あー! そういうことか! "何を区別してるか"がポイントなのね。会社そのものか、商品か、サービスか
拓也
いい質問! じゃなくて、もう自分で答え出してるじゃん。完璧
美咲
……っ、な、なによ急に褒めて。当たり前のことに気づいただけだから
第4幕:そういうのより、向いてる仕事
拓也
にしても、法律系って言ってたけど、意外とスラスラ理解できてるじゃん
美咲
まあね。ふふん
拓也
ただ、正直に言うと……美咲ってさ、法律関係とか苦手そうだし、というかこういうお堅い仕事より、もっと人と話すのが向いてる気がするけど。さっきも8社ちゃんと回ってきたわけでしょ、そういう行動力のほうが美咲の武器な気がするんだよね
美咲
……は?
拓也
あ、いや、けなしてるわけじゃなくて、褒めてて
美咲
今、私の進路に口出しした? あんたに決められる筋合いないんだけど
拓也
ご、ごめん……。そんなつもりじゃなかった。ただの雑談のつもりで……
美咲
就活してる本人の前で、進路の話を軽く言うのやめてよ。一番デリケートなとこなんだから
拓也
……ほんとにごめん。軽率だった
美咲
……ふん、わかればいいのよ。次から気をつけなさい
拓也
うん、気をつける
美咲
……まあ、いいわ。正直、法律とか、六法とか、こういうお堅いやつ、あんまり興味ないのよね。得意とか苦手とかの話じゃなくて、単純につまらないだけ
拓也
そんなことないと思うけどな。今、普通に理解できてたし
美咲
理解できるのと、好きかどうかは別よ
拓也
……それは、そう
美咲
ま、興味ないなりに、点数は取るけどね。舐めないでほしいわ
第5幕:PBって特別扱いじゃないの?
拓也
じゃあ、気を取り直して残りのイとウね
美咲
イは『製造業者、販売業者が提供する商品を、他社の商品と区別するために表示する商標』……これ、さっき言ってた"モノにつけるほう"よね
拓也
そう、これがさっきの商品商標そのもの。お菓子のパッケージについてるロゴとか、家電のブランドマークとか、まさにこれ。イは間違いじゃないけど、聞かれてるのは『サービスマーク』だから不正解
美咲
……アとイとエ、全部『商標』の話ではあるのね。何を区別するかが違うだけで
拓也
その通り。じゃあウは?
美咲
『大規模小売業者が開発したプライベートブランドの商品を、他社の商品と区別するために表示する商標』……プライベートブランドって、スーパーとかにあるやつよね。安いお菓子とかについてる、あのお店独自のブランド
拓也
そうそう、PB商品。ちょっと特別な感じがするけど、結局これも"商品"についてる商標なんだよ。作ってるのがメーカーじゃなくて小売業者ってだけで、モノにロゴをつけてるのは同じ
美咲
じゃあ、これも結局イの仲間ってことね
拓也
そういうこと。ウは『プライベートブランド』っていう、いかにも試験に出そうな言葉で気を引いてくるけど、本質は商品商標。サービスマークとは無関係
美咲
……なんかもう、全部わかった気がするんだけど
拓也
完璧。まとめると——
問題文(再掲)
商標法におけるサービスマークを説明したものはどれか。
- ア企業が、企業そのものを他社と区別するために表示する商標である。
- イ製造業者、販売業者が提供する商品を、他社の商品と区別するために表示する商標である。
- ウ大規模小売業者が開発したプライベートブランドの商品を、他社の商品と区別するために表示する商標である。
- エ輸送業者、金融業者などが提供する役務を、他社の役務と区別するために表示する商標である。
まとめ:選択肢ごとの答え合わせ
| 選択肢 | 説明の対象 | 区別しているもの | 正誤 |
|---|---|---|---|
| ア | 企業そのもの(いわゆるハウスマーク的な説明) | 会社という存在 | 不正解 |
| イ | 商品商標の一般的な説明 | 商品 | 不正解 |
| ウ | プライベートブランド商品の商標(商品商標の一種) | 商品 | 不正解 |
| エ | サービスマークの説明 | 役務(サービス) | 正解 |
答えエ 輸送業者、金融業者などが提供する役務を、他社の役務と区別するために表示する商標である。
覚え方のコツ
「モノに刷れるか、刷れないか」で見分ける。
拓也
商品商標は、手に取れるモノに直接ロゴを刷れる。サービスマークは、売ってるもの自体に形がないから、パンフレットとか看板とか、周りのものにロゴをつけるしかない
美咲
今日、ノベルティくれたかくれなかったかで、だいたい判別できるってことね
拓也
あくまで覚え方としてはね。試験本番でクリアファイルは持ち込めないから、頭の中で『この会社、モノ売ってる? それともサービス売ってる?』って考える癖をつけとくといいよ
- 商品を売る会社(メーカー・小売など) → 商品商標(イ・ウはこちら)
- サービスを売る会社(輸送・金融・保険など) → サービスマーク(エ)
- 会社そのものを表すマーク → 商標法上の「商品商標」「役務商標」とはまた別軸(ア)
美咲
アだけ仲間はずれ、ってこと?
拓也
そう。アだけ『何を売ってるか』の話じゃなくて、『会社そのものを示す』話だから、そもそも比較する軸がズれてるんだ
おまけ:サービスマークって、意外と身近
拓也
サービスマークって聞くと難しそうだけど、実はすごく身近だよ。宅配便のトラックに描かれてるロゴとか、銀行の看板とか、美容室の店名ロゴとか、全部サービスマーク
美咲
へえ、そう考えると急に見慣れたものに思えてきた
拓也
試験では『商品』と『役務』、どっちを区別する話をしてるかを問題文から読み取れるかがポイント。問題文に『役務』とあればサービスマーク、『商品』とあれば商品商標。商標法の条文用語がそのまま出てくるから、この2語を目印にするのが確実だよ
美咲
なるほど。就活イベントも、見る目変わりそうだわ
エピローグ
美咲
……ねえ
拓也
ん?
美咲
今日の、あんたの勉強会
拓也
うん
美咲
まあ、それなりのサービスではあるんじゃない? サービスマーク的な意味で
拓也
え、それ、褒めてる?
美咲
な、なによ、事実を用語に当てはめてみただけじゃない。深い意味はないから
拓也
……そう
美咲
なによ、その微妙な反応
拓也
いや、なんでもない。……あ、そうだ、さっきは本当にごめん。進路のこと、軽く言って
美咲
……もういいわよ、それは。ちゃんと謝ったし
拓也
うん
美咲
じゃ、そろそろ午後の部行かなきゃ。……今日もありがと。次も、なんかあったら連絡するから
拓也
うん、いつでも
美咲
……即答しないでよ、ちょっとは考えなさいよ、毎回
今日のポイントおさらい
- 商標には「商品商標」と「サービスマーク(役務商標)」の2種類がある
- サービスマークが区別するのは役務=形のないサービス(輸送業・金融業など)
- 「企業そのものを区別するマーク」(選択肢ア)は、商品商標・サービスマークとは別の軸の話
- プライベートブランドの商標(選択肢ウ)も、結局は商品商標の一種
- 見分け方は「モノに刷れるか、刷れないか」=商品を売っているか、サービスを売っているか
次回もお楽しみに。
この記事はITパスポート試験 令和7年度 問12(ストラテジ系/法務)の解説です。