登場人物
美咲(みさき)
女子大生。就活のエントリーシートの資格欄が真っ白なことに気づき、慌ててITパスポートの勉強を開始。ITは完全に素人。高校時代は可愛くて人気者だったので、ちょっとプライドが高い。素直じゃない。
拓也(たくや)
美咲の高校時代の同級生。東京大学工学部。子どもの頃からパソコンばかりいじってきた生粋のオタク。実は美咲のことが好きだが、10年近く言い出せていない。教えるのは得意だが、口が悪いのが玉に瑕。
今日の問題
今日の問題
史跡などにスマートフォンを向けると、昔あった建物の画像や説明情報を現実の風景と重ねるように表示して、観光案内ができるようにした。ここで活用した技術の組み合わせを表す用語として、最も適切なものはどれか。
- アAR
- イGUI
- ウVR
- エメタバース
第1幕:珍しく美咲から
拓也のスマホが振動する。画面には「美咲」の文字。今までは、勉強会の約束はいつも会っているときに直接決まっていた。美咲の方からわざわざ連絡してくるのは、これが初めてだった。
拓也
もしもし?
美咲
あ、もしもし。……今、暇?
拓也
暇だけど、どうしたの、珍しく連絡くれるなんて
美咲
べ、別に理由なんてないけど。……商店街のとこに、なんか面白いアプリのポスター貼ってあって。史跡にスマホかざすと、昔の建物が見えるとかなんとか。あんた、こういうの詳しそうだから、一緒に見てみない?
拓也
行く行く。今から向かう
美咲
即答しすぎ
拓也
え、ダメだった?
美咲
別にダメじゃないけど……。じゃ、商店街の入り口で待ってるから
電話を切ったあと、拓也はしばらくスマホの画面を見つめたまま動けなかった。
第2幕:現実に重なるなら、VRでしょ?
商店街の入り口、古い神社の鳥居の前。美咲がスマホを構えて、案内アプリを試している。画面の中では、鳥居の奥に、昔あった木造の社殿らしきCGが現実の風景に重なって表示されている。
美咲
見て見て、すごい! 今は無い建物なのに、ここにあったみたいに見える!
拓也
お、ちょうどいいや。それ、今日の問題にそのまま出てくる技術だよ
美咲
え、ほんとに?
拓也
うん。この体験に使われてる技術、何だと思う?
美咲
じゃあ答えるわね。これ、ウ VRでしょ
拓也
お、なんでVR?
美咲
だって、目の前に無いはずの建物が見えてるわけでしょ。バーチャルってことは、VRじゃないの?
拓也
発想は近いんだけど、実はVRとAR、ここで求められてるものが正反対なんだ
美咲
正反対?
拓也
うん。ちょっと整理しながら見ていこうか
第3幕:現実に貼る付箋か、別世界のゴーグルか
拓也
まずVR=Virtual Reality(仮想現実)。これは、完全に別の仮想世界に入り込む技術。専用のゴーグルをつけると、現実の景色は一切見えなくなって、視界の全部が作られた世界に置き換わる
美咲
あ、あのゴーグルつけてゲームやるやつ
拓也
そうそう。現実を"置き換える"のがVRの本質
美咲
じゃあ、今スマホでやってるこれは……
拓也
これがAR=Augmented Reality(拡張現実)。現実の景色はそのまま残したうえで、情報を"重ねて"表示する技術。目の前の鳥居も現実そのままで、そこに昔の社殿のCGが付箋みたいに貼り付いてるイメージ
美咲
付箋……
拓也
そう。紙の地図の上に、透明なシートを重ねて、そこに書き込みを足していく感じ。現実そのものは消えずに残ってて、その上に追加情報が乗ってるだけ、っていうのがARなんだ
美咲
……あー! そういうことか! VRは現実を"消して置き換える"、ARは現実を"残したまま重ねる"。真逆どころか、残すか消すかが正反対なのね
拓也
完璧。だから、今スマホの画面で鳥居がちゃんと現実のまま映ってて、そこに建物のCGだけが重なってるこの体験は、まさにARの定義そのものなんだよ
美咲
なるほど……。じゃあ、なんで問題文には『技術の"組み合わせ"』って書いてあるの?
拓也
いい質問。ARを実現するには、カメラで今の景色を認識する技術と、GPSやセンサーでその場所を特定する技術と、そこに正しい位置でCGを重ねて描画する技術、これらを組み合わせて初めて成立するんだ。だから単体の技術というより、"複数の技術の合わせ技"って言われることが多い
美咲
へえ、意外と裏側は複雑なのね
第4幕:拓也、無意識に比較してしまう
拓也
ちなみにこの手のARアプリ、うちの研究室の後輩とかは普通に授業の課題で作ってたりするから、正直そんなに難しい技術でもないんだよね
美咲
……は?
拓也
あ、いや、美咲がすごくないって意味じゃなくて、技術的にはそこまで珍しくない、っていう話で
美咲
なんか今、さらっと『後輩は普通に作ってた』とか言わなかった?
拓也
あ……
美咲
あんた、たまにそうやって、他の誰かと比較する言い方するわよね。『研究室の後輩は』とか『サークルの人は』とか。悪気ないのはわかるけど、こっちは素人なんだから、ちょっと傷つくんだけど
拓也
……ごめん。無意識だった。比べるつもりはなかったんだけど
美咲
無意識だからこそ、直したほうがいいと思うわよ。誰かと比べられるの、あんまり気分いいものじゃないから
拓也
肝に銘じます。……ほんとにごめん
美咲
……ふん、わかればいいのよ。ちゃんと次から気をつけなさいよね
第5幕:残りの選択肢を片付ける
拓也
気を取り直して、残りのイとエね
美咲
イは『GUI』……これ、なんか聞いたことある単語な気がする
拓也
GUIはGraphical User Interfaceの略で、アイコンやボタンを使って、視覚的に操作できる画面の仕組みのこと。今どきのパソコンやスマホの画面は、ほとんどこれ
美咲
あ、それって、AR/VRとは全然カテゴリー違う話よね
拓也
そのとおり。GUIは"操作方法"の話であって、"現実か仮想か"の話じゃないんだ。だから、ここでは仲間外れの選択肢
美咲
じゃあ最後の『メタバース』は?
拓也
メタバースは、インターネット上に作られた仮想空間で、自分の分身(アバター)を通じて、他の人たちと交流したり活動したりする世界のこと。VRゴーグルを使うことも多いけど、パソコンやスマホから参加できるものもある
美咲
あ、なんかゲームの中でみんなで集まってるみたいな、あれ?
拓也
まさにそれ。VRが"技術"の名前だとしたら、メタバースは"その技術を使って作られた、仮想の街や空間そのもの"っていうイメージ。今回の問題は、現実の史跡にCGを重ねる話だから、メタバースとは方向性が違う
美咲
なるほど……。AR、VR、GUI、メタバース。全部『画面に何か表示される』話ではあるけど、何を目的にしてるかが全部バラバラだったのね
拓也
そのとおり。似たカタカナ用語が並ぶと混乱しがちだけど、"現実を残すか消すか""操作の話か空間の話か"で切り分けると、けっこうスッキリするよ
問題文(再掲)
史跡などにスマートフォンを向けると、昔あった建物の画像や説明情報を現実の風景と重ねるように表示して、観光案内ができるようにした。ここで活用した技術の組み合わせを表す用語として、最も適切なものはどれか。
- アAR
- イGUI
- ウVR
- エメタバース
まとめ:選択肢ごとの答え合わせ
| 選択肢 | 用語 | 特徴 | 正誤 |
|---|---|---|---|
| ア | AR(拡張現実) | 現実の景色に情報を重ねて表示する | 正解 |
| イ | GUI | アイコンやボタンで視覚的に操作する画面の仕組み | 不正解(操作方法の話) |
| ウ | VR(仮想現実) | 現実を完全に置き換え、別の仮想世界に没入する | 不正解(現実を消す方) |
| エ | メタバース | 仮想空間でアバターを通じて交流・活動する世界 | 不正解(空間そのものの話) |
答えア AR
覚え方のコツ
現実に"透明な付箋"を貼るのがAR、現実を"置き換える"のがVR。
- AR=現実+情報の重ね表示。現実の景色はそのまま残る
- VR=現実を完全に置き換える。専用ゴーグルで別世界に没入する
- GUI=操作方法の話。AR/VRとはそもそも軸が違う
- メタバース=VRなどを使って作られた、仮想の空間や街そのもの
拓也
『AR』と『VR』、文字が似てて紛らわしいけど、"現実が残るか消えるか"を軸に考えると絶対に間違えなくなるよ。ARのAは"Augmented(拡張)"のA、現実に何かを"足す"イメージで覚えるといいかも
美咲
Vは……Virtualの"つくりもの"ってことね。じゃあ現実を消してつくりものに変える、と
おまけ:ARが使われている身近な例
拓也
今回みたいな観光案内のほかにも、家具のアプリで『自分の部屋に置いたらどう見えるか』を試せるやつとか、スマホゲームでキャラクターが現実の道に立ってるように見えるやつとか、身近なところにけっこうARは使われてるよ
美咲
あ、家具のやつ知ってる! 部屋にソファ置く前に試せるの、あれ地味に便利よね
拓也
そうそう。現実の空間はそのままで、そこに情報だけ重ねる、っていうARの強みが一番活きてる使い方だと思う
エピローグ
商店街のアーケードを、二人で並んで歩いていく。美咲がもう一度スマホをかざすと、古い商店の跡地に、昔あった店構えのCGがふわりと浮かび上がる。
美咲
……なんか、いいわね、これ。無くなったものが、まだそこにあるみたいに見えるの
拓也
たしかに。記録として、いいよね
美咲
ねえ、あんたも、これくらい記憶力よくしなさいよね
拓也
え、AR関係なくない?
美咲
今日のこと、ちゃんと覚えておきなさい、って意味。……私から連絡したの、今日が初めてだったんだから
拓也
……うん、覚えとく。ちゃんと、記憶に重ねとく
美咲
なによ、その言い方
拓也
いや、なんか今日のARっぽいなと思って。現実の記憶に、今日のことをちゃんと重ねて残しておくって意味で
美咲
……理屈っぽいけど、悪くない言い方ね
拓也
褒められた?
美咲
さあ、どうかしら。……また、なんかあったら連絡するから
拓也
うん、待ってる
今日のポイントおさらい
- AR(拡張現実)=現実の景色はそのまま、情報を重ねて表示する技術
- VR(仮想現実)=現実を完全に置き換えて、別の仮想世界に没入する技術
- GUIは操作方法の話であり、AR/VRとはそもそもカテゴリーが違う
- メタバースはVRなどを使って作られた、仮想の空間や街そのもの
- AR/VRの区別は、「現実が残るか、消えるか」で見分けるとわかりやすい
次回もお楽しみに。
この記事はITパスポート試験 令和6年度 問25(ストラテジ系/産業と業種)の解説です。