登場人物
美咲(みさき)
女子大生。就活のエントリーシートの資格欄が真っ白なことに気づき、慌ててITパスポートの勉強を開始。ITは完全に素人。高校時代は可愛くて人気者だったので、ちょっとプライドが高い。素直じゃない。
拓也(たくや)
美咲の高校時代の同級生。東京大学工学部。子どもの頃からパソコンばかりいじってきた生粋のオタク。実は美咲のことが好きだが、10年近く言い出せていない。教えるのは得意だが、口が悪いのが玉に瑕。
今日の問題
今日の問題
システム開発の早い段階で、目に見える形で利用者の要求が確認できるような確認用のソフトウェアを作成するソフトウェア開発モデルとして、最も適切なものはどれか。
- アアジャイル
- イウォーターフォール
- ウスパイラル
- エプロトタイピング
第1幕:歌わずに勉強会
カラオケの防音個室。歌うつもりで来たはずが、結局いつものように問題集を広げている。ドリンクバーのグラスだけが、やけに賑やかにテーブルに並ぶ。
美咲
今日こそ歌うつもりだったのに、結局これね
拓也
まあまあ、静かで集中できるし。ちょうどいいよ
美咲
今日はマネジメント系の分野なんだけど……なんか一気に単語が難しくなった気がする
拓也
あ、それ、システム開発の進め方の話だ。ちょうどいいから、音楽制作にたとえて説明しようか
美咲
音楽? ここカラオケだから?
拓也
うん、せっかくだしね
第2幕:早く見せるなら、アジャイルでしょ?
美咲
じゃあ答えるわね。これアでしょ。『アジャイル』
拓也
お、なんでそう思った?
美咲
だって、アジャイルって『素早い』みたいな意味でしょ。『早い段階で見せる』って書いてあるんだから、アジャイルっぽいじゃない
拓也
発想はすごく近いんだけど、実は着眼点がちょっとズレてるんだ
美咲
え、そうなの?
拓也
うん。アジャイルは、短い期間で"計画→開発→テスト"を何度も繰り返しながら、実際に動く機能を少しずつ完成させていく開発スタイル全体を指す言葉。"早さ"や"柔軟さ"が特徴なんだけど、今回の問題文が聞いてるのは、もっとピンポイントな話なんだ
美咲
ピンポイント?
拓也
うん。問題文、もう一回読んでみて。"目に見える形で利用者の要求が確認できるような、確認用のソフトウェア"って書いてあるでしょ。これ、たとえ話で説明するね
第3幕:本番レコーディングの前に、デモ音源
拓也
曲を作るとき、いきなりフルオーケストラで本番レコーディングする?
美咲
しないと思う。まず、簡単なデモから作るんじゃない?
拓也
そう、それ! ギター1本の弾き語りとか、簡単な打ち込みで"デモ音源"を作って、プロデューサーとかクライアントに聴かせて、"こんな感じの方向性でいいですか?"って確認する
美咲
あ……それが、今回の問題の話ってこと?
拓也
まさにそれ。開発の早い段階で、実際に触れる"試作品(プロトタイプ)"を作って、利用者に見せて確認する。これがプロトタイピングモデル
美咲
じゃあ、デモ音源=プロトタイプってことね
拓也
そういうこと。"完成品はまだ無いけど、方向性はこれで合ってますか?"って早めに聞いておくのがプロトタイピングの本質。だから正解はエなんだ
美咲
……あー! そういうことか! アジャイルは"作り方全体のスタイル"の話で、プロトタイピングは"早い段階で試作品を見せて確認する"っていう、もっと具体的な手法の話だったのね
拓也
完璧。似てるようで、"何にフォーカスしてるか"が全然違うんだ
第4幕:拓也、マイクを持ってプレゼンし始める
拓也
ちなみにプロトタイピングって、実務だとすごく大事な考え方でさ――
拓也がテーブルの上のマイクを、無意識に手に取る。
拓也
(マイク越しに)"作ってから気づく"より、"作る前に気づく"ほうが、圧倒的にコストが低いんです。試作品を早期に提示することで、手戻りのリスクを大幅に削減できるんですよ
美咲
……ちょっと、なんでマイク持って喋ってるのよ
拓也
あ
美咲
ここ、歌う場所だから。プレゼン会場じゃないから
拓也
すみません、つい熱が入ると、マイクがあると使いたくなる癖があって……
美咲
あんた、たまに説明が急に"発表会"みたいになるわよね。資料もないのに、なんかプレゼンしてる気分になってるでしょ
拓也
……図星です。以後、気をつけます
美咲
ん、次から普通に喋ってくれれば十分だから
拓也がそっとマイクをスタンドに戻す。
第5幕:残りの選択肢を片付ける
拓也
気を取り直して、残りのイとウね
美咲
イは『ウォーターフォール』……これは聞いたことある。上から下に、水が流れるみたいに進めるやつよね
拓也
そう。要件定義→設計→実装→テストを、順番どおりに、後戻りしない前提で進めるモデル。最初にしっかり計画を固めるから、早い段階で試作品を見せる文化はあまりないんだ
美咲
じゃあウの『スパイラル』は?
拓也
スパイラルは、機能ごとに分割して、"設計→開発→評価"のサイクルを繰り返しながら、少しずつ精度を上げていくモデル。プロトタイピングと似た部分もあるけど、"リスクを評価しながら本番に近づけていく"っていう側面が強いんだ
美咲
なるほど……。デモの例えで言うと、スパイラルは"デモを少しずつ改良しながら、本番に近づけていく"感じかしら
拓也
いい例え。プロトタイピングが"最初の確認"に焦点を当ててるのに対して、スパイラルは"繰り返しながら完成度を上げる"ことに焦点があるんだ
美咲
今日、なんか開発モデル、全部"何を大事にしてるか"が少しずつ違う話だったのね
拓也
そのとおり。名前だけ覚えるんじゃなくて、"それぞれ何にフォーカスしてる手法か"を押さえておくと、選択肢で迷わなくなるよ
問題文(再掲)
システム開発の早い段階で、目に見える形で利用者の要求が確認できるような確認用のソフトウェアを作成するソフトウェア開発モデルとして、最も適切なものはどれか。
- アアジャイル
- イウォーターフォール
- ウスパイラル
- エプロトタイピング
まとめ:選択肢ごとの答え合わせ
| 選択肢 | モデル | フォーカス | 正誤 |
|---|---|---|---|
| ア | アジャイル | 短い期間で反復しながら機能を完成させていく開発スタイル全体 | 不正解 |
| イ | ウォーターフォール | 工程を順番どおり、後戻りせず進める | 不正解 |
| ウ | スパイラル | サイクルを繰り返しながら少しずつ完成度を上げる | 不正解 |
| エ | プロトタイピング | 早い段階で試作品を見せ、利用者の要求を確認する | 正解 |
答えエ プロトタイピング
覚え方のコツ
本番レコーディングの前に、まずデモ音源。
- プロトタイピングは「早い段階で試作品を見せて、要求を確認する」ことに特化したモデル
- アジャイルは開発スタイル全体、スパイラルは繰り返しながら完成度を上げることにフォーカス
- ウォーターフォールは後戻りしない前提で、早期の試作確認はあまり重視されない
拓也
『早い段階で』『目に見える形で』『要求を確認』、この3つのキーワードが揃ったら、ほぼプロトタイピングだと思っていいよ
美咲
デモ音源を聴かせて『こんな感じでいい?』って確認する、あの感覚よね
おまけ:プロトタイピングのメリット・デメリット
拓也
プロトタイピングのいいところは、利用者と開発者の"完成イメージのズレ"を早期に発見できること。ただし、試作品を作るコストや時間がかかるっていうデメリットもある
美咲
デモ音源作るのにも、時間かかるもんね
拓也
そう。だから、プロジェクトの規模や予算に応じて、どこまで試作品を作り込むかを考えるのも大事なポイントなんだ
エピローグ
ドリンクバーのお代わりを持って、美咲が席に戻る。
美咲
ねえ、今日の話でいうと
拓也
うん?
美咲
私たちの関係も、プロトタイピングでいいんじゃない? いきなり完成形目指さなくても
拓也
え、それ、なんの話?
美咲
べ、別に。ただ、いきなり全部決めなくても、少しずつ確認しながらでいいんじゃないか、って、それだけ
拓也
……うん。それ、悪くない進め方だと思う
美咲
でしょ。……まあ、デモ音源はもう、けっこう聴かせてもらってる気がするけど
拓也
え、それ、俺のこと?
美咲
さあ、どうかしら
拓也心の声
……このデモ、早く本番にならないかな
美咲
なによ、また黙り込んで
拓也
いや、なんでもない。……次はちゃんと歌おうね、ここ、カラオケだし
美咲
そうね。じゃ、何歌う?
今日のポイントおさらい
- プロトタイピングモデル=開発の早い段階で試作品を見せ、利用者の要求を確認する手法
- アジャイルは反復しながら機能を完成させていく開発スタイル全体を指す、より広い概念
- ウォーターフォールは後戻りしない前提で工程を順番どおりに進める
- スパイラルはサイクルを繰り返しながら、少しずつ完成度を上げていくことに重点がある
- 判断のポイントは「早い段階で」「目に見える形で」「要求を確認」の3つのキーワード
次回もお楽しみに。
この記事はITパスポート試験 令和7年度 問44(マネジメント系/システム開発技術)の解説です。