登場人物
美咲(みさき)
女子大生。就活のエントリーシートの資格欄が真っ白なことに気づき、慌ててITパスポートの勉強を開始。ITは完全に素人。高校時代は可愛くて人気者だったので、ちょっとプライドが高い。素直じゃない。
拓也(たくや)
美咲の高校時代の同級生。東京大学工学部。子どもの頃からパソコンばかりいじってきた生粋のオタク。実は美咲のことが好きだが、10年近く言い出せていない。教えるのは得意だが、口が悪いのが玉に瑕。
今日の問題
今日の問題
プロジェクトで作成するWBSに関する記述のうち、適切なものはどれか。
- アWBSではプロジェクトで実施すべき作業内容と成果物を定義するので、作業工数を見積もるときの根拠として使用できる。
- イWBSには、プロジェクトのスコープ外の作業も検討して含める。
- ウ全てのプロジェクトにおいて、WBSは成果物と作業内容を同じ階層まで詳細にする。
- エプロジェクトの担当者がスコープ内の類似作業を実施する場合、WBSにはそれらの作業を記載しなくてよい。
第1幕:学食のテーブルで
空きコマの学食、隅のテーブル。美咲が来月の引っ越し準備のメモをスマホに打ち込みながら、ため息をついている。
美咲
はあ……引っ越しの準備、何から手をつけていいかわからないのよね。荷造りも、業者の手配も、手続きも、全部いっぺんに考えるとパンクしそう
拓也
あ、それ、今日の問題の考え方が使えるかも
美咲
え、引っ越しに?
拓也
うん。『WBS』っていう、大きな仕事を小さく分解する考え方についての問題
美咲
へえ、じゃあ実生活にも役立ちそうね
第2幕:全部同じ深さまで分けるんでしょ?
美咲
じゃあ答えるわね。これウでしょ。『全てのプロジェクトにおいて、成果物と作業内容を同じ階層まで詳細にする』
拓也
お、なんでそう思った?
美咲
だって、分解するなら、どのプロジェクトでも同じくらい細かく分けたほうが、統一感あって良さそうじゃない
拓也
発想はわかるんだけど、実は"どこまで細かく分けるか"は、プロジェクトごとに違っていいんだ
美咲
え、統一しなくていいの?
拓也
うん。規模が大きいプロジェクトと小さいプロジェクトで、同じ細かさにする必要はない。むしろ、そのプロジェクトに合った、ちょうどいい粒度で分解するのが正しいんだ
美咲
あ……"全部同じルールで統一する"んじゃなくて、"案件に応じて調整する"のね
第3幕:引っ越しを分解する
拓也
正解はア。まず、WBSがどういうものか、さっきの引っ越しの話で説明するね
美咲
うん
拓也
『引っ越し』って、そのままだと大きすぎて、何から手をつけていいかわからないでしょ。だから、まず"荷造り" "業者手配" "電気ガス水道の手続き"みたいに、大きな塊を分解する
美咲
あ、さっき私が悩んでたやつだ
拓也
そう。さらに、"荷造り"をもっと細かく分解すると、"衣類" "本" "食器"みたいに分かれていく。こうやって、大きな仕事を、実際に手を動かせるレベルの小さい作業まで、階層的に分解したもの、これがWBS(Work Breakdown Structure)
美咲
なるほど……。"作業分解構成図"みたいな感じね
拓也
そのとおり。で、ここまで細かく分解できると、"衣類の梱包に2時間"とか、"食器の梱包に3時間"みたいに、それぞれの作業にかかる時間(工数)を見積もりやすくなるんだ
美咲
あ……あー! そういうことか! 細かく分解すればするほど、"この作業にどれくらい時間がかかるか"が具体的にわかるようになるから、それを積み上げて全体の工数も見積もれるってことね
拓也
完璧。だから選択肢アの『作業工数を見積もるときの根拠として使用できる』が正しいんだ
美咲
なるほどね……。じゃあ、細かく分解するのがそもそもの目的、ってわけじゃないのね
拓也
そう。"見積もりやすくするための手段"であって、"細かく分けること自体"がゴールじゃない。だから、必要以上に細かくする必要はないんだ
第4幕:拓也、勝手にルールを決める
拓也
あ、そうだ。この学食のこの席、勉強会にちょうどいいから、次からいつもここにしよう
美咲
……え、勝手に決めるの?
拓也
あ
美咲
別にこの席が嫌ってわけじゃないけど、なんで確認もなしに『次からここ』って決まってるのよ
拓也
ごめん、いい感じだったから、つい……
美咲
あんた、たまに『これでいこう』って、こっちの意見聞かずにルール化しようとするわよね。学習計画表のときも似たようなことあったし
拓也
たしかに……。次からちゃんと『どう思う?』って聞くようにする
美咲
ん、それでいいのよ。……まあ、この席自体は、悪くないと思うけど
拓也
そう言ってもらえると、ちょっと安心する
美咲
でも、決めるのは私も一緒に、よ
拓也
うん、肝に銘じます
第5幕:残りの選択肢を片付ける
拓也
気を取り直して、残りのイとエね
美咲
イは『スコープ外の作業も検討して含める』……これ、なんとなく丁寧そうに見えるけど
拓也
一見丁寧そうに見えるけど、実は逆効果なんだ。WBSは、そのプロジェクトの"スコープ(範囲)内"の作業を分解するもの。スコープ外のもの、つまり"そもそもこのプロジェクトではやらないこと"まで含めると、逆に何をすべきかが曖昧になっちゃう
美咲
あ、引っ越しの例えで言うと、『引っ越しと関係ない、来月の旅行の準備』まで混ぜて書いちゃう、みたいな感じ?
拓也
まさにそれ。関係ないことまで混ざると、肝心の引っ越し作業がぼやける。じゃあエの『類似作業は記載しなくてよい』は?
美咲
これも、なんとなく『同じような作業なら省略していいのかな』って思っちゃいそうだけど
拓也
そう思うのが自然なんだけど、スコープ内の作業である以上、類似していても、ちゃんと記載する必要があるんだ。省略すると、その作業にかかる時間や担当が、計画から抜け落ちちゃうから
美咲
なるほど……。イは"余計なものを混ぜすぎ"、エは"必要なものを省略しすぎ"。どっちも極端だったのね
拓也
そのとおり。スコープ内のことは漏れなく、スコープ外のことは含めない。このバランスが大事なんだ
問題文(再掲)
プロジェクトで作成するWBSに関する記述のうち、適切なものはどれか。
- アWBSではプロジェクトで実施すべき作業内容と成果物を定義するので、作業工数を見積もるときの根拠として使用できる。
- イWBSには、プロジェクトのスコープ外の作業も検討して含める。
- ウ全てのプロジェクトにおいて、WBSは成果物と作業内容を同じ階層まで詳細にする。
- エプロジェクトの担当者がスコープ内の類似作業を実施する場合、WBSにはそれらの作業を記載しなくてよい。
まとめ:選択肢ごとの答え合わせ
| 選択肢 | 内容 | 正誤 |
|---|---|---|
| ア | 作業内容と成果物を定義し、工数見積もりの根拠に使える | 正解 |
| イ | スコープ外の作業も検討して含める | 不正解(スコープ外は含めない) |
| ウ | 全プロジェクトで同じ階層まで詳細にする | 不正解(粒度は案件ごとに調整) |
| エ | 類似作業は記載しなくてよい | 不正解(スコープ内なら漏れなく記載) |
答えア WBSではプロジェクトで実施すべき作業内容と成果物を定義するので、作業工数を見積もるときの根拠として使用できる。
覚え方のコツ
引っ越しを、荷造り→衣類・本・食器、と分解する。
- WBS=大きな仕事を、実際に手を動かせる小さな作業まで階層的に分解したもの
- 分解の目的は"工数の見積もりやすさ"。細かくすること自体がゴールではない
- スコープ内は漏れなく、スコープ外は含めない。分解の粒度はプロジェクトごとに調整してよい
拓也
WBSに関する問題は、"何のために分解するのか"を思い出すと迷わないよ。見積もりの根拠にするためのものだから、"細かければ細かいほどいい"わけでも、"雑でいい"わけでもないんだ
美咲
ちょうどいい細かさ、を意識すればいいのね
おまけ:WBSと工数見積もりの関係
拓也
実務だと、WBSで分解した各作業に、担当者と見積もり時間を割り当てて、プロジェクト全体のスケジュールや必要な人員を計算するんだ。第3部でやる学園祭編でも、また詳しく触れると思う
美咲
へえ、先の話まで繋がってるのね
エピローグ
学食のざわめきの中、美咲がノートに書いた引っ越し準備リストを見せる。
美咲
ねえ、これで見ると、私たちの勉強会も、WBSの一部みたいなものよね
拓也
え、どういうこと?
美咲
"合格する"が最終的な成果物だとしたら、今この勉強会は、その中の小さな作業の一つ、ってことでしょ
拓也
たしかに、そう言われるとそうかも
美咲
じゃあ、合格した後のタスクって、まだこのWBSに入ってないってことよね
拓也
……それ、どういう意味?
美咲
さあ、どうかしら。……まだ先の話だから、今は考えなくていいんじゃない
拓也心の声
……合格した後も、ちゃんとこの"プロジェクト"、続けたいな
美咲
なによ、黙り込んで
拓也
いや、なんでもない。……とりあえず、今のタスクに集中しようか
美咲
そうね。次は何をやるの?
今日のポイントおさらい
- WBS=大きな仕事を、手を動かせる小さな作業まで階層的に分解したもの
- 分解する目的は作業工数を見積もりやすくするため。細かくすること自体が目的ではない
- WBSはスコープ内の作業を漏れなく含め、スコープ外の作業は含めない
- 分解の詳細さ(階層の深さ)は、プロジェクトごとに適切なレベルを調整してよい
- 類似した作業でも、スコープ内であれば省略せずきちんと記載する
次回もお楽しみに。
この記事はITパスポート試験 令和4年度 問36(マネジメント系/プロジェクトマネジメント)の解説です。