← 一覧に戻る

【第30話】既読のまま、進まない|ITパスポート 令和4年度 問13

~ツンデレ女子大生と東大パソコンオタクの、ちょっと不器用な勉強会~

第30話|第2部 場所:図書館

登場人物

美咲

美咲(みさき)

女子大生。就活のエントリーシートの資格欄が真っ白なことに気づき、慌ててITパスポートの勉強を開始。ITは完全に素人。高校時代は可愛くて人気者だったので、ちょっとプライドが高い。素直じゃない。

拓也

拓也(たくや)

美咲の高校時代の同級生。東京大学工学部。子どもの頃からパソコンばかりいじってきた生粋のオタク。実は美咲のことが好きだが、10年近く言い出せていない。教えるのは得意だが、口が悪いのが玉に瑕。

図書館

今日の問題

今日の問題

情報公開法に基づいて公開請求することができる文書として、適切なものはどれか。

  • 国会などの立法機関が作成、保有する立法文書
  • 最高裁判所などの司法機関が作成、保有する司法文書
  • 証券取引所に上場している企業が作成、保有する社内文書
  • 総務省などの行政機関が作成、保有する行政文書

第1幕:五日目の沈黙

平日の午後、大学図書館の自習コーナー。拓也は一人で、参考書とノートパソコンを広げていた。周りの席は夏休みでまばらに空いている。

駅前のベンチであの日、美咲は「また、連絡する」と言って改札の向こうへ消えた。それから、五日が経っていた。

送ったメッセージには、既読がついている。返事だけが、まだない。

拓也は何度もその画面を開きかけて、そのたびにやめた。急かすようなことは、したくなかった。だから、できることだけをする。今日も一人で、次の記事のための問題を解く。

拓也

拓也心の声

……待ってる、って言ったんだから。ちゃんと、待つ

参考書のページをめくる音だけが、静かな自習コーナーに響いていた。

第2幕:もし美咲だったら

今日の問題は、情報公開法。行政機関に対して「その文書、見せてください」と請求できる制度についての問題だった。

一人で解説を書こうとして、拓也はふと手を止める。こういうとき、いつもなら美咲がまず先に、勢いだけで答えを言ってくる。

頭の中で、聞き慣れた声が勝手に再生された。

美咲

美咲

これでしょ。だって、証券取引所に"上場してる"企業って、要は"公開されてる"会社ってことじゃない。名前からして、情報公開法にぴったりだと思うけど

拓也は、思わず小さく笑ってしまう。想像の中の彼女は、いつもどおり自信満々だった。

拓也

拓也

……うん、その発想、絶対に一回はみんな引っかかるやつだよ

想像だとわかっていても、つい声に出して答えてしまう。今日は、それに付き合ってもらうしかなかった。

拓也

拓也

実は"上場している"かどうかと、"情報公開法の対象になる"かどうかは、まったく別の話なんだ

第3幕:図書館と、上場してるだけの本屋さん

拓也は、目の前に積んである図書館の資料を見ながら考える。

拓也

拓也

たとえば、この図書館。ここは公共施設だから、住民票を持ってる人なら誰でも『この資料、見せてください』って言える。これが、情報公開法が想定してる関係

情報公開法(正式名称:行政機関の保有する情報の公開に関する法律)は、国の行政機関が持っている「行政文書」を、誰でも請求すれば開示させられる制度だ。総務省や財務省のような、国の役所が対象になる。

拓也

拓也

じゃあ、駅前に大きな本屋さんがあったとして。その会社が証券取引所に上場してたとしても、俺たちがふらっと『社内の資料、見せてください』って言って、見せてもらえると思う?

もし美咲がここにいたら、たぶんこう返してくる。

美咲

美咲

……言われてみれば、無理よね。あくまで"民間の会社"だもの

拓也

拓也

そう。上場してるかどうかは、株を自由に売買できるかどうかの話であって、"誰にでも社内資料を見せる義務"とは全然関係ないんだ。むしろ上場企業には、株主や投資家向けに"決算情報を開示する"別のルール(金融商品取引法)があるけど、それも今回の情報公開法とは別物

エが正解。総務省のような行政機関が持っている行政文書、これだけが情報公開法の対象になる。

第4幕:まだ、送れない一文

説明を書き終えて、拓也はスマホを手に取った。

LINEのトーク画面を開く。一番上には、五日前の自分の発言だけが残っている。「うん。待ってる」の下は、ずっと白いままだった。

指が、キーボードの上で止まる。「元気にしてる?」と打ってみて、すぐに全部消す。「無理しなくていいから」と打って、また消す。どの言葉も、今の自分が送っていいものだとは思えなかった。

拓也

拓也心の声

急かしたら、意味がない。……美咲が、自分のタイミングで戻ってこられるように

結局、何も送らずに、拓也はスマホを閉じた。今できるのは、彼女がいつ戻ってきてもいいように、記事を止めずに続けておくことだけだった。

第5幕:残りの選択肢を片付ける

気を取り直して、拓也は残りの選択肢もノートにまとめる。想像の中の美咲に向かって、続きを説明するように。

拓也

拓也

アの『立法文書』は、国会のような立法機関が持ってる文書。イの『司法文書』は、最高裁判所のような司法機関が持ってる文書。どっちも、情報公開法の対象は"行政機関"限定だから、これも外れる

拓也

拓也

国会にも裁判所にも、それぞれ独自の情報公開のルールはあるんだけど、"情報公開法"という同じ法律で扱われてるわけじゃない。行政・立法・司法で、それぞれ別の制度になってるんだ

美咲

美咲

じゃあ、行政機関だけ特別ってこと?

想像の中の彼女に、拓也はうなずく。

拓也

拓也

特別っていうか……行政機関が持ってる情報は、俺たち国民の税金や暮らしに直結することが多いから、"透明性"がより強く求められてる、っていう理由があるんだ

問題文(再掲)

情報公開法に基づいて公開請求することができる文書として、適切なものはどれか。

  • 国会などの立法機関が作成、保有する立法文書
  • 最高裁判所などの司法機関が作成、保有する司法文書
  • 証券取引所に上場している企業が作成、保有する社内文書
  • 総務省などの行政機関が作成、保有する行政文書

まとめ:選択肢ごとの答え合わせ

選択肢内容正誤
国会などの立法機関が保有する立法文書不正解(対象は行政機関のみ)
最高裁判所などの司法機関が保有する司法文書不正解(対象は行政機関のみ)
上場企業が保有する社内文書不正解(民間企業は対象外)
総務省などの行政機関が保有する行政文書正解

答えエ 総務省などの行政機関が作成、保有する行政文書

覚え方のコツ

情報公開法が見せてくれるのは、行政機関の"引き出し"だけ。

おまけ:行政文書でも、見せてもらえないものがある

拓也

拓也

ちなみに、行政機関が持ってる文書なら何でも見せてもらえるわけじゃないんだ。個人情報とか、国の安全に関わる情報とか、一部は"不開示情報"として除外される

想像の中の美咲が、ふうん、と相槌を打つ。

拓也

拓也

透明性は大事だけど、何でも丸見えにしていいわけじゃない。そのバランスを取るための制度でもあるんだ

エピローグ

図書館の閉館アナウンスが流れる。拓也はノートを閉じ、リュックに参考書をしまった。

外に出ると、夏の夕方の空気がまだ蒸し暑い。歩きながら、もう一度だけスマホを開く。トーク画面は、変わらず静かなままだった。

拓也

拓也心の声

……美咲の気持ちも、"開示請求"できたら楽なんだけどな

柄にもないことを考えて、拓也は一人で苦笑いする。そんな制度は、どこにもない。

拓也

拓也心の声

まあ、いいか。……戻ってきたときに、ちゃんと説明できるように、続けとかないと

自習コーナーで一人分の解説を書き上げたノートを、拓也はもう一度カバンの中で確かめた。今日も、返事は来なかった。それでも、明日も同じ時間に、同じ場所に来るつもりだった。

今日のポイントおさらい

  1. 情報公開法の対象は、国の行政機関が持つ「行政文書」に限られる
  2. 国会(立法機関)・裁判所(司法機関)は対象外で、それぞれ別のルールを持つ
  3. 民間企業は、証券取引所に上場していても情報公開法の対象にはならない
  4. 上場企業には別途、株主・投資家向けの情報開示ルール(金融商品取引法)がある
  5. 行政文書でも、個人情報など一部は「不開示情報」として公開の対象外になる

この記事はITパスポート試験 令和4年度 問13(ストラテジ系/法務)の解説です。

← 一覧に戻る