登場人物
美咲(みさき)
女子大生。就活のエントリーシートの資格欄が真っ白なことに気づき、慌ててITパスポートの勉強を開始。ITは完全に素人。高校時代は可愛くて人気者だったので、ちょっとプライドが高い。素直じゃない。
拓也(たくや)
美咲の高校時代の同級生。東京大学工学部。子どもの頃からパソコンばかりいじってきた生粋のオタク。実は美咲のことが好きだが、10年近く言い出せていない。教えるのは得意だが、口が悪いのが玉に瑕。
今日の問題
今日の問題
マネーロンダリングの対策に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア金融取引に当たり、口座開設時の取引目的や本人確認を徹底し、資金の出所が疑わしい取引かどうかを監視する。
- イ紙幣の印刷に当たり、コピー機では再現困難な文字や線、傾けることによって絵が浮かび上がるホログラムなどの技術を用いて、複製を困難にする。
- ウ税金の徴収に当たり、外国にある子会社の利益を本国の親会社に配当されたものとみなして、本国で課税する。
- エ投資に当たり、安全性や収益性などの特徴が異なる複数の金融商品を組み合わせることによって、一つの事象によって損失が大きくなるリスクを抑える。
第1幕:8月も終わりの、深夜のコンビニ
夜中の一時過ぎ。眠れなくなった拓也は、部屋を出て近所のコンビニに向かった。8月も終わりに近づき、夜だけは少しずつ涼しくなり始めている。
レジ横のATMコーナーに、「不審な振込にご注意ください」という啓発ポスターが貼ってあった。特殊詐欺や不正送金への注意を呼びかける、よくある掲示だ。
拓也は、それを何気なく眺めながら、今日書く記事のテーマを思い出す。マネーロンダリング。犯罪で得た「汚れたお金」の出どころを、正規の取引に見せかけてわからなくする行為だった。
拓也(……この手の話、前にも美咲としたことあったな)
イートインスペースの隅の席に座り、拓也はノートパソコンを開いた。
第2幕:二ヶ月前の、同じやり取り
なんとなく、拓也はスマホのトーク画面を遡ってみた。既読のまま止まっている今の会話のずっと上、二ヶ月ほど前のところに、こんなやり取りが残っていた。
美咲
マネーロンダリングって、なんか物騒な響きね。"お金を洗う"って、つまり偽札を作るってこと?
拓也
あ、それ、そのとき言ってた
画面の中の会話は、当時の拓也の返信でこう続いていた。
拓也
ううん、偽札作りとは別物なんだ。マネーロンダリングは、"犯罪で手に入れた汚れたお金"を、口座を転々とさせたりして、"どこから来たかわからない、きれいなお金"に見せかける行為のこと
美咲
じゃあ、紙幣そのものを偽物にする話じゃないのね
拓也
そう。"お金の中身が本物か偽物か"じゃなくて、"そのお金がどこから来たか"を隠す行為なんだ
二ヶ月前の自分の説明を読み返して、拓也は小さく笑う。今日の問題も、結局は同じところが誤答の罠になっている。
第3幕:守っているものが違う
拓也は、今日の記事用に、改めて整理する。
拓也
今回の選択肢、イの『紙幣の偽造防止技術』は、まさに"偽物と本物を見分けられなくする"ことへの対策。ホログラムとか特殊な印刷技術は、紙幣そのものが偽物でないかを守るための仕組みなんだ
拓也
でも、マネーロンダリング対策が守りたいのは別のところ。"このお金が、誰の、どこから来たお金なのか"を追えなくされることへの対策なんだ
拓也
だから正解はア。口座開設時に本人確認を徹底して、資金の出所が疑わしい取引を監視する。これが、マネーロンダリングの典型的な対策になる
想像の中の美咲が、あの日と同じ調子で相槌を打つ。
美咲
あー、なるほど。"お金自体が本物か"じゃなくて、"誰のお金かたどれるか"のほうを守ってるのね
拓也
そのとおり。イは"偽造"を防ぐ話、アは"出どころの追跡"を守る話。似たような場面で使われがちだけど、守ってるものがそもそも違うんだ
第4幕:聞き覚えのない名前
説明を書き終えたところで、拓也のスマホが震えた。
いつもの通知音ではなかった。反射的に画面を見ると、美咲からではなく、聞き覚えのある、けれどしばらく連絡を取っていなかった名前が表示されていた。高校時代の共通の友人だった。
拓也(……こんな時間に、珍しいな)
メッセージのプレビューには「ねえ、拓也、ちょっと聞きたいことあるんだけど」とだけ表示されている。深夜にしては、妙に改まった文面だった。
拓也は、開くべきか少し迷って、指を止めた。美咲の名前ではないとわかった瞬間、少しだけ落胆した自分にも気づく。
拓也(……いや、考えすぎか。とりあえず、今日のぶんは書き終えよう)
通知をそのままにして、拓也はノートパソコンの画面に向き直った。胸の奥に、小さな引っかかりだけが残っていた。
第5幕:残りの選択肢を片付ける
気を取り直して、拓也は残りの選択肢もノートにまとめる。
拓也
ウの『外国子会社の利益を本国で課税する』は、タックスヘイブン対策税制っていう、租税回避を防ぐための別の制度。お金の出どころを隠す話じゃなくて、税金逃れを防ぐための仕組み
美咲
エは?
拓也
エは、分散投資によるリスク管理の話。複数の金融商品を組み合わせて、一つの損失に引っ張られすぎないようにする、っていう考え方。これは犯罪対策ですらなくて、投資の基本戦略の話なんだ
拓也
イ・ウ・エは、どれも金融がらみではあるけど、"何を防ぎたいか"がそれぞれ全然違う。偽造防止、税金逃れ防止、投資リスクの分散……そして今回のマネーロンダリング対策は、"出どころを追跡できるようにする"話
問題文(再掲)
マネーロンダリングの対策に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア金融取引に当たり、口座開設時の取引目的や本人確認を徹底し、資金の出所が疑わしい取引かどうかを監視する。
- イ紙幣の印刷に当たり、コピー機では再現困難な文字や線、傾けることによって絵が浮かび上がるホログラムなどの技術を用いて、複製を困難にする。
- ウ税金の徴収に当たり、外国にある子会社の利益を本国の親会社に配当されたものとみなして、本国で課税する。
- エ投資に当たり、安全性や収益性などの特徴が異なる複数の金融商品を組み合わせることによって、一つの事象によって損失が大きくなるリスクを抑える。
まとめ:選択肢ごとの答え合わせ
| 選択肢 | 内容 | 正誤 |
|---|---|---|
| ア | 本人確認の徹底と、疑わしい取引の監視 | 正解 |
| イ | 紙幣の偽造防止技術(ホログラムなど) | 不正解(守るものが違う) |
| ウ | タックスヘイブン対策税制(外国子会社への課税) | 不正解 |
| エ | 分散投資によるリスク管理 | 不正解 |
答えア 口座開設時の本人確認を徹底し、資金の出所が疑わしい取引かどうかを監視する
覚え方のコツ
偽札対策は"本物か偽物か"、マネロン対策は"誰のお金か"。
- マネーロンダリング対策=資金の出どころを追跡できるようにすること(本人確認・疑わしい取引の監視)
- 紙幣の偽造防止技術は、お金そのものが本物かどうかを守る、別の対策
- タックスヘイブン対策税制は税金逃れ防止、分散投資はリスク管理。どちらもマネーロンダリング対策とは別の制度
おまけ:本人確認は、なぜそんなに厳しいのか
拓也
銀行口座を作るとき、身分証の提示を何度も求められて面倒に感じることがあると思うんだけど、あれもマネーロンダリング対策の一環なんだ。"誰が、どんな目的でその口座を使うのか"を最初にはっきりさせておくことで、あとから出どころの怪しいお金が流れ込んでも気づきやすくなる
美咲
面倒だと思ってたけど、ちゃんと意味があったのね
エピローグ
イートインスペースの照明の下、書き終えた記事を読み返しながら、拓也はもう一度スマホを手に取った。
美咲とのトーク画面は、今日も静かなままだった。その少し上に、さっき届いた友人からのメッセージが未読で残っている。
拓也(……何の用だろう。まあ、明日でいいか)
そう思いながらも、指は結局そのメッセージを開いていた。文面を読み終えるころには、コンビニの外はうっすらと白み始めていた。
拓也(……そうか。美咲、そっちに)
拓也は画面を見つめたまま、しばらく動けずにいた。ノートパソコンを閉じる手が、いつもより少しだけ、急いでいた。
今日のポイントおさらい
- マネーロンダリング対策=資金の出どころを追跡できるようにすること(本人確認・疑わしい取引の監視)
- 紙幣の偽造防止技術は、お金そのものが本物かどうかを守る別の対策
- タックスヘイブン対策税制は、外国子会社を使った税金逃れを防ぐ制度
- 分散投資は、複数の金融商品を組み合わせて損失リスクを抑える投資の基本戦略
- 似た場面で語られがちな用語ほど、"何を防ごうとしているのか"の違いに注目すると整理しやすい
この記事はITパスポート試験 令和4年度 問29(ストラテジ系/産業と業種)の解説です。