登場人物
美咲(みさき)
女子大生。就活のエントリーシートの資格欄が真っ白なことに気づき、慌ててITパスポートの勉強を開始。ITは完全に素人。高校時代は可愛くて人気者だったので、ちょっとプライドが高い。素直じゃない。
拓也(たくや)
美咲の高校時代の同級生。東京大学工学部。子どもの頃からパソコンばかりいじってきた生粋のオタク。実は美咲のことが好きだが、10年近く言い出せていない。教えるのは得意だが、口が悪いのが玉に瑕。
今日の問題
今日の問題
必要な時期に必要な量の原材料や部品を調達することによって、工程間の在庫をできるだけもたないようにする生産方式はどれか。
- アBPO
- イCIM
- ウJIT
- エOEM
第1幕:なんで来たのよ
在来線を三本乗り継いで、さらにバスに揺られて一時間。拓也がたどり着いたのは、見渡す限り田んぼが広がる、小さな集落だった。友人から聞いた住所を頼りに歩き、ようやく古い日本家屋の前に立つ。
縁側に、美咲がいた。膝を抱えて、ぼんやりと庭を眺めている。
美咲
……は?
拓也の姿を見た瞬間、美咲の顔から表情が消えた。
美咲
なんで、ここがわかったのよ
拓也
……共通の友達から。心配だったから
美咲
余計なお世話よ。なんで来たのよ
美咲は立ち上がり、拓也に背を向けようとする。けれど、家の中に逃げ込むでもなく、縁側の端に座り直しただけだった。
拓也
帰れって言われても、今日は帰らない
美咲
……ふん、勝手にすれば
そう言いながらも、美咲は追い払おうとはしなかった。縁側の隅に、拓也が腰を下ろすのを、黙って許した。奥の台所から、祖母らしき人が麦茶を運んできて、何も聞かずに置いていく。蝉の声が、まだ夏の終わりを惜しむように鳴いていた。
第2幕:とりあえず、問題出しなさいよ
しばらく、二人とも何も話さなかった。庭先の風鈴が、時々思い出したように鳴る。
美咲
……で。いつまでそこにいるつもり
拓也
美咲が話す気になるまで
美咲
話すことなんて、ないんだけど
また、沈黙が落ちる。耐えられなくなったのは、先に美咲のほうだった。
美咲
……ちょっと。何か、しゃべりなさいよ、気まずいから
拓也
うん
美咲
あんた、今日のぶんの問題、持ってきてるんでしょ
拓也は、少し驚いた顔をする。
美咲
別に、あんたのために聞いてあげるわけじゃないから。ただ、こうやって黙って座ってるほうが、変な感じがするだけ
拓也
……うん、持ってきた
拓也はリュックからノートを取り出す。二人の間に、ようやくいつもの空気が少しだけ戻ってきた。
美咲
JITってやつね。これイでしょ、CIM
拓也
お、なんでそう思った?
美咲
コンピュータで生産工程を全部管理すれば、無駄な在庫も自然と減りそうじゃない。だから、"コンピュータで一元管理する仕組み"のCIMが正解なのかなって
第3幕:ばあちゃんの畑と同じ
拓也は、庭の隅にある小さな畑に目をやった。
拓也
あそこの畑、おばあちゃんが育ててるやつ?
美咲
そうよ。採れた分だけ、その都度台所に持っていくの。作りだめなんて、しないから
拓也
それ、まさに今日の答えのヒントになるよ
美咲
……え、どういうこと
拓也
CIMは、"コンピュータで生産工程を一元管理する"っていう、もっと広い概念の言葉なんだ。それに対して、今日の問題が聞いてるのは、"必要な時期に、必要な量だけ調達して、在庫を持たないようにする"っていう、もっと具体的な生産方式の話
美咲
あ……それ、おばあちゃんの畑と同じ考え方ってこと?
拓也
そのとおり。おばあちゃんが、野菜を採れた分だけその都度使うのは、余らせて腐らせないため。それと同じように、工場でも必要になる直前に、必要な分だけ部品を届けてもらうことで、在庫を抱えるコストや無駄を減らす。これがJIT(ジャストインタイム)
美咲
……あー! そういうことか。作りだめしないのがポイントなのね
拓也
正解はウのJIT。CIMは"コンピュータでの一元管理"っていう手段の話、JITは"必要なときに必要な分だけ"っていう在庫管理の考え方の話。似てるようで、指してるものが違うんだ
第4幕:私、バカだから
説明が終わって、また静かになる。美咲は、麦茶のグラスを両手で包みながら、庭を見つめていた。
美咲
……こんな簡単な問題も、ちゃんと考えないと間違えるのよ、私
拓也
……
美咲
615点も取れたのに、300点にすら届かない分野があるなんて。頭がいいわけじゃないのよ、私。あんたと違って
拓也
美咲
美咲
バカだから、後回しにしちゃうの。興味ないことは、ちゃんと考えないの。ずっとそう。昔からそう
美咲
……ここに来たのだって、結局、逃げてるだけ。恥ずかしくて、誰にも会いたくなくて
美咲の声が、少しずつ震え始める。
美咲
私、バカだから……
拓也
バカなんかじゃない!
拓也にしては、珍しく大きな声だった。今まで、こんな声を聞いたことは一度もなかった。美咲が、驚いた顔で拓也を見る。
拓也
バカなんかじゃない。美咲は、ちゃんと考えられる。ちゃんとわかる。今日だって、ヒント一つで、ちゃんと自分で気づいた
拓也
615点取ったのは、美咲がちゃんと頑張った結果だ。285点だったのだって、興味を持てなかっただけで、頭が悪いからじゃない
拓也
……俺は、美咲が受かるまで付き合うって決めてるから。それだけ
短い言葉だった。でも、拓也がそれだけ言うのに、精一杯だった。
美咲は、しばらく何も言わずに、顔を伏せていた。肩が、小さく震えている。声を出さずに、涙だけが膝の上に落ちていた。長くは続かなかった。ひとしきり泣いたあと、美咲は袖で乱暴に顔をぬぐった。
第5幕:残りの選択肢を片付ける
しばらくして、美咲が小さく洟をすすりながら、ノートを覗き込んだ。
美咲
……気を取り直して。残りの、アとエは?
拓也
アのBPOは、自社の業務プロセスを、まるごと外部の会社に委託すること。経理とか人事とか、専門の会社にお願いする、っていう仕組み。在庫管理の話とは、そもそも土台が違う
美咲
エは?
拓也
エのOEMは、他社ブランドの製品を、自社で製造すること。委託されたメーカーが、依頼元のブランド名で製品を作る仕組み。これも、"在庫をどう管理するか"の話じゃなくて、"誰が、誰のブランドで作るか"の話なんだ
美咲
……BPOは業務委託、CIMはコンピュータでの一元管理、OEMは他社ブランドでの製造。JITだけが、"在庫を持たない"考え方の話なのね
拓也
そのとおり。似たようなアルファベット3文字が並ぶと混乱しがちだけど、それぞれ何を指してるかを、一つずつ整理すればちゃんと見分けられるよ
問題文(再掲)
必要な時期に必要な量の原材料や部品を調達することによって、工程間の在庫をできるだけもたないようにする生産方式はどれか。
- アBPO
- イCIM
- ウJIT
- エOEM
まとめ:選択肢ごとの答え合わせ
| 選択肢 | 内容 | 正誤 |
|---|---|---|
| ア | BPO(業務プロセスの外部委託) | 不正解 |
| イ | CIM(コンピュータによる生産工程の一元管理) | 不正解 |
| ウ | JIT(必要な時期に必要な量だけ調達し、在庫を持たない) | 正解 |
| エ | OEM(他社ブランドでの受託製造) | 不正解 |
答えウ JIT(ジャストインタイム)
覚え方のコツ
採れた分だけ、その都度使う。作りだめしない、それがJIT。
- JIT=必要な時期に、必要な量だけ調達して、工程間の在庫を持たない生産方式
- CIMは"コンピュータでの一元管理"、BPOは"業務委託"、OEMは"他社ブランドでの製造"。それぞれ指してるものが違う
- 紛らわしいアルファベット略語は、"何を管理・実現するための言葉か"で一つずつ整理する
エピローグ
日が傾き始めた頃、拓也は帰りのバスの時間を確認した。
拓也
そろそろ、行くよ
美咲
……うん
拓也
無理に東京に戻ってこいとは言わない。ちゃんと戻ってこられそうになったら、それでいいから
美咲
……あんたは、勝手に来て、勝手に説教して、勝手に帰るのね
拓也
説教したつもりはないんだけどな
美咲
……ふん
それでも、美咲は玄関先まで見送りに出てきた。バス停までの道を、二人で並んで歩く。田んぼを渡る風が、少しだけ涼しかった。
バス停のベンチで、拓也はしばらく黙って座っていた。バスが来るのが見えたところで、隣から小さな声がした。
美咲
……ありがと
それだけだった。振り向くと、美咲は少し赤くなった目のまま、そっぽを向いていた。拓也は、何も言わずに、小さくうなずいた。
バスに乗り込み、窓越しに見えた美咲は、まだそこに立ったまま、小さく手を振っていた。
今日のポイントおさらい
- JIT(ジャストインタイム)=必要な時期に必要な量だけ調達し、工程間の在庫を持たない生産方式
- CIMはコンピュータによる生産工程の一元管理で、JITとは指しているものが違う
- BPOは業務プロセスの外部委託、OEMは他社ブランドでの受託製造で、どちらも在庫管理の話ではない
- 似たアルファベット略語ほど、それぞれが「何のための仕組みか」を分けて整理する
- 紛らわしい選択肢は、キーワードのイメージだけで判断せず、定義そのものに立ち返ると迷いにくい
この記事はITパスポート試験 令和6年度 問15(ストラテジ系/産業と業種)の解説です。