登場人物
美咲(みさき)
女子大生。就活のエントリーシートの資格欄が真っ白なことに気づき、慌ててITパスポートの勉強を開始。ITは完全に素人。高校時代は可愛くて人気者だったので、ちょっとプライドが高い。素直じゃない。
拓也(たくや)
美咲の高校時代の同級生。東京大学工学部。子どもの頃からパソコンばかりいじってきた生粋のオタク。実は美咲のことが好きだが、10年近く言い出せていない。教えるのは得意だが、口が悪いのが玉に瑕。
今日の問題
今日の問題
マーケティング戦略の策定プロセスのうち、自社製品の差別化ポイントを明確にするものはどれか。
- アセグメンテーション
- イプロモーション
- ウターゲティング
- エポジショニング
第1幕:また来たの
あの日から、五日が経っていた。
拓也は、週末を待って、また同じ在来線とバスを乗り継いでいた。今度は事前に、一言だけ連絡を入れてある。「また週末、行っていい?」に、既読だけがついて、返事はなかった。それでも、拓也は向かった。
バス停から歩いていくと、庭先の畑で、美咲がしゃがみ込んでいるのが見えた。祖母と並んで、収穫した野菜をかごに入れている。
美咲
……あ
拓也に気づいて、美咲は少しだけ気まずそうな顔をした。けれど、前回のような刺々しさはなかった。
美咲
……また来たの
拓也
うん。連絡したのに返事くれないから、来るしかなかった
美咲
べ、別に、無視してたわけじゃないから。忙しかっただけ
祖母が「あら、この前の彼氏ちゃんね」と笑いながら口を挟んでくる。美咲が「彼氏じゃないから!」と、慌てて否定した。その慌てぶりが、五日前よりずっと元気そうに見えて、拓也は少しだけ安心する。
第2幕:選ぶお客さんを決める話でしょ
縁側に戻り、いつもの位置に二人で座る。祖母が持ってきてくれた麦茶を飲みながら、拓也はノートを広げた。
拓也
今日の問題、これなんだけど
美咲
マーケティング戦略ね。……あ、これウでしょ。『ターゲティング』
拓也
お、なんでそう思った?
美咲
だって、"差別化ポイントを明確にする"って、要は"どのお客さんを狙うか"を決める話じゃない。ターゲットを絞り込むからこそ、他と違うところが見えてくる、みたいな
拓也
発想は近いんだけど、実は"狙う相手を決める"のと、"その相手に対して何をアピールするか"は、別の工程なんだ
第3幕:隣の直売所との違い
拓也は、縁側から見える庭先の直売所の看板に目をやった。祖母が育てた野菜を、時々近所に売っているらしい。
拓也
たとえば、おばあちゃんが野菜を売るとするよね。マーケティングの流れって、だいたいこの3段階なんだ
拓也
まずセグメンテーション。お客さんを『健康志向の人』『子育て世代』みたいに、グループに分ける。次にターゲティング。その中から『今回は健康志向の人に売ろう』って、狙う層を決める
美咲
うんうん、そこまでは合ってたのね
拓也
そして最後がポジショニング。『じゃあ、隣の直売所と比べて、うちの野菜は何が違うのか』を、はっきりさせる工程。『無農薬だから』とか『朝採れだから新鮮』とか、差別化ポイントを明確にするのが、このポジショニングの役目なんだ
美咲
あ……! "誰に売るか"を決めるのがターゲティングで、"何が違うから選ばれるのか"を決めるのがポジショニング、ってことね
拓也
そのとおり。今日の問題が聞いてるのは、"自社製品の差別化ポイントを明確にする"工程。だから正解はエのポジショニング
美咲
似たようなカタカナが並ぶと、つい混同しちゃうわね
第4幕:ゆっくりでいいから
説明が一区切りついたところで、美咲がぽつりとつぶやいた。
美咲
……ねえ。私、まだ、東京に戻る自信、あんまりないんだけど
拓也
うん
美咲
でも、このままずっと、ここにいるわけにもいかないのはわかってる
拓也
別に、急がなくていいよ。おばあちゃんの野菜、美味しいし
美咲
……そういう話じゃないんだけど
美咲は、少し呆れたように笑った。五日前には見られなかった表情だった。
拓也
無理に急かすつもりはない。ただ、勉強のほうは、こうやって続けられるから。美咲の準備ができるまで、俺はここに通うだけだし
美咲
……律儀よね、あんたも
拓也
褒めてる?
美咲
さあ、どうかしら
素っ気ない言い方だったけれど、声にはさっきまでよりも、少しだけ張りが戻っていた。
第5幕:残りの選択肢を片付ける
気を取り直して、美咲がノートを覗き込む。
美咲
じゃあ、残りのアとイも教えて
拓也
アのセグメンテーションは、さっき言ったとおり、市場を属性ごとのグループに分ける工程。年齢とか、ライフスタイルとか、いろんな切り口で分類するんだ
美咲
イの『プロモーション』は?
拓也
プロモーションは、広告とか宣伝活動そのもののこと。決めたターゲットに向けて、どうやって知ってもらうか、買ってもらうかを考える工程。今日の"差別化ポイントを明確にする"とは、また別の話
美咲
セグメンテーションで分けて、ターゲティングで狙いを絞って、ポジショニングで差別化を決めて、プロモーションで届ける。……4つとも、順番があるのね
拓也
いい整理。この流れ、"STP"って略して呼ばれることもあるんだ。セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングの頭文字
問題文(再掲)
マーケティング戦略の策定プロセスのうち、自社製品の差別化ポイントを明確にするものはどれか。
- アセグメンテーション
- イプロモーション
- ウターゲティング
- エポジショニング
まとめ:選択肢ごとの答え合わせ
| 選択肢 | 内容 | 正誤 |
|---|---|---|
| ア | セグメンテーション(市場を属性ごとに分ける) | 不正解 |
| イ | プロモーション(広告・宣伝活動) | 不正解 |
| ウ | ターゲティング(狙う顧客層を決める) | 不正解 |
| エ | ポジショニング(自社製品の差別化ポイントを明確にする) | 正解 |
答えエ ポジショニング
覚え方のコツ
「誰に売るか」はターゲティング、「何が違うから選ばれるか」はポジショニング。
- セグメンテーション=市場を属性ごとに分ける
- ターゲティング=分けた中から狙う層を決める
- ポジショニング=自社製品の差別化ポイントを明確にする
- この3つを合わせて、頭文字からSTPと呼ばれることもある
エピローグ
夕方、拓也がバス停へ向かう時間になった。今日も、美咲がバス停まで一緒に歩いてついてきた。
美咲
……次、いつ来るの
拓也
来てほしい?
美咲
べ、別に、そういうわけじゃ……ただ、来るなら来るで、ちゃんと日にち教えてって話
拓也
わかった。じゃあ、来週も
美咲
……勝手に決めないでよね。まあ、いいけど
バスが近づいてくる音が、遠くから聞こえてくる。
美咲
あんたが来るたびに、なんか、変な野菜のお土産持たされそうね
拓也
それはそれで、楽しみにしとく
美咲
あんたって、変なとこ図太いわよね
拓也
よく言われる
バスに乗り込む拓也を、美咲はまっすぐこちらを向いて見送っていた。表情は、まだ完全にはいつもの調子に戻っていない。それでも、少しずつ、元の美咲が戻ってきているのがわかった。
今日のポイントおさらい
- ポジショニング=自社製品の差別化ポイントを明確にするプロセス
- セグメンテーションは市場を属性ごとに分けること、ターゲティングは狙う顧客層を決めること
- プロモーションは広告・宣伝活動そのもので、差別化とは別の工程
- セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニングの流れは、頭文字からSTPと呼ばれる
- 似たカタカナ用語は、マーケティングの流れのどの段階の話かで整理すると混同しにくい
この記事はITパスポート試験 令和7年度 問35(ストラテジ系/経営戦略マネジメント)の解説です。